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横浜地方裁判所 昭和28年(ワ)1150号 判決

原告

大新鉄工株式会社

ほか一名

原告等訴訟代理人

松尾黄楊夫

大山菊治

菅沼漠

被告

村山文雄

被告

村山産業株式会社

被告

株式会社村山鋼材シヤーリング

被告等三名訴訟代理人

安西義明

赤沢俊一

被告村山産業株式会社

および被告株式会社村山鋼材シヤーリング訴訟代理人

滝沢斉

主文

被告村山産業株式会社は原告大新鉄工株式会社の為別紙第一物件目録記載の土地につき、原告申学彬の為別紙第二物件目録記載の土地につき、各横浜地方法務局昭和二十八年十月二十七日受付第二八一五八号同日付売買による所有権移転登記の抹消登記手続を為せ。

被告株式会社村山鋼材シヤーリング株式会社は原告大新鉄工株式会社に対し横浜市鶴見区鶴見町字芦穂崎千二百二十八番地家屋番号三九二番の三木造亜鉛メツキ鋼板茸二階建店舗兼居宅一棟建坪一坪五合外二階一坪五合を収去して別紙第一物件目録記載の土地を、原告申学彬に対し別紙第二物件目録記載の土地を明渡せ。

被告村山文雄は原告大新鉄工株式会社のため別紙第一物件目録記載の土地につき、原告申学彬のため別紙第二物件目録記載の土地につき昭和二十八年十月二十日付買戻権行使による所有権移転登記手続を為せ。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は被告株式会社村山鋼材シヤーリングのため、原告大新鉄工株式会社において金三十万円の、又原告申学彬において金二十万円の担保を供するときは主文第二項中担保を供した原告にかかる部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告等訴訟代理人は、主文第一・二項同旨および被告村山文雄に対し、第一次に、原告大新鉄工株式会社のため、第一物件目録記載の土地につき横浜地方法務局昭和二十八年八月六日受付第一九五四〇号同月五日付同年十月五日迄に買戻し得る旨の特約付売買に因る所有権取得登記の、又原告申学彬のため別紙第二物件目録記載の土地につき同法務局同年八月七日受付第一九六一五号同月五日付同年十月五日迄に買戻し得る旨の特約付売買に因る所有権取得登記の各抹消登記手続を求める旨、第二次に主文第三項同旨および訴訟費用は被告等三名の負担するとの判決並に被告株式会社村山鋼材シヤーリングに対し建物の収去および土地を求める部分につき仮執行の宣言を求め、被告等訴訟代理人は、原告等の各請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする、との判決を求めた。<以下省略>

理由

別紙第一物件目録記載の土地が原告会社の、同第二物件目録記載の土地が原告申学彬の各所有に属していたこと前者につき昭和二十八年八月六日付後者につき同月七日付何れも被告村山文雄のため原告等主張の所有権移転登記手続が為されたことは当事者間に争ない。原告等は右登記手続は被告村山文雄に対する原告等主張の消費貸借契約上の債務を担保するため右各土地につき、代物弁済の予約を為し、該予約上の権利の実行を確保する目的で為されたものであると主張するけれども、この点に関する甲第一号証(公正証書)は採用できないし又証人<省略>の証言(一、二回)中右主張に沿う部分は信用できない。そして、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

そして、<証拠―省略>を綜合すると、昭和二十八年八月初頃、原告会社は事業の資金繰が困難となり訴外炭本英治に対し本件土地を担保として、金三百万円程度の借入の幹旋方を依頼し、同人を通じて、被告村山文雄から借受けるはこびとなつたが、同被告は原告会社に対する金六十数万円の貸金が期限をすぎても未だ弁済されていない事情にあつたため原告会社に融資するには担保物件につき単なる抵当権の設定では承知せず、買戻権留保の上売買することを要求したので、原告等はいずれにしても期日に返済すれば本件土地を手放さずに済むとの考えからこれを承諾し、昭和二十八年八月五日、原告等及び被告村山文雄間に(一)同被告は原告会社に金二百五十万円を弁済期同年十月五日、利息一ケ月七分の約で貸付け、(二)原告申学彬は原告会社の右消費貸借契約による債務につき連帯保証を為し、(三)右債務を担保するため、原告会社は別紙第一物件目録記載の土地を、又、原告申学彬は別紙第二物件目録記載の土地を提供し、原告等は被告村山文雄に対し右土地を合計金二百五十万円で売渡すこと、但し、原告等は借受金の弁済期までに借受元利金相当の金額を以つて之を買戻すことができる旨約定し、原告会社は昭和二十八年八月七日被告村山文雄宛、額面金二百五十万円、満期同年十月五日、支払地、振出地東京都、支払場所富士銀行日本橋支店、なる約束手形一通を振出し、被告村山文雄から、右金額を借受けたことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

次に、証人<省略>の証言によれば、原告会社は訴外炭本英治を通じ被告村山文雄に対し再度買戻期間の伸長を申入れ同被告は右期間を結局昭和二十八年十月二十日迄伸長することを承諾するに至つたことを、又、右各証人の証言並に証人<省略>の証言(第二回)により成立を認めうる甲第十七号証及び原告申学彬本人の尋問の結果を綜合すると、昭和二十八年十月二十日朝九時頃炭本英治及び浅野季雄の両名が被告村山文雄宅に、原告会社代表者平山栄一の妻某振出株式会社日本相互銀行宛額面金二百五十万円の小切手を持参したところ、被告村山文雄より現金で元本に金五十万円を添えて同日午後五時までに持参することを求められ、同日午後三時五十分頃浅野季雄と原告申学彬とが再び現金五十万円及び富士銀行日本橋支店長池田網振出に係る自己宛額面金二百五十万円の小切手を持参し提供したところ、被告村山文雄は不在であつたが、同人の実弟訴外村山文平は、被告村山文雄の代理人として、現金による支払でないことを理由としてその受領を拒否したことを認めることができる。<中略>他には右認定を左右するに足りる証拠はない。

被告等は買戻期間を伸長することは民法第五百八十条第二項に違背し無効であると主張するけれども、債権担保を目的とする買戻約款付売買については少くとも当事者間においては買戻期間を伸長することができるものと解すべきところ、本件土地の買戻約款付売買は債権担保の目的を以て為されたものであることはその成立の経過により之を認めうるから、被告等の右主張の理由のないことは明らかである。

次に、信用ある銀行の振出にかかる小切手による弁済の提供は債権者において直ちに現金を必要とする等特殊の事情のない限り現金による提供と同一視すべきものであるところ原告会社代理人浅野季雄及び原告申学彬は現金五十万円と共に株式会社富士銀行日本橋支店長池田網振出の自己宛金二百五十万円の小切手一通を提供したというのであり、当時株式会社富士銀行が信用ある銀行であつたことは証人<省略>の証言(一回)により之を認めうるから、原告等は被告村山文雄に対し金三百万円の提供をしたのと同一視すべきであり、原告等は之により前記借受元本及びその主張の利息を提供し、之と同時に買戻の意思表示をも為したものと認めるのが相当であるから、その効果として原告等と被告村山文雄との間の本件土地の売買は解除され、本件土地の所有権は当然に原告等に復帰したものと解すべきである。

被告等は原告等の買戻の為に提供した金額は利息の計算に過誤があり、その為元利金の金額に満たなかつた旨主張するけれども前記貸借の日から右提供の日までの金二百五十万円に対する利息制限法所定の利息は金七万八千六百二十九円であることが計算上明かであり、原告等は法律上同額の利息を支払えば足りるものであるから、この点に関する被告等の主張はその余の説明を為すまでもなく理由のないことが明かである。

そして、原告等が昭和二十八年十月二十三日前記借受金に之に対する右期間の利息制限法所定の限度を超える利息を加え合計金二百九十三万七千五百円を供託したことは当事者に争がない。

ところが、被告村山産業は元羽田産業株式会社と称し、その後原告等主張の通り商号を変更して今日に至つたものであること、被告村山文雄が右供託の日から僅か四日後、同月二十七日本件土地につき被告村山産業株式会社のため売買による所有権移転登記手続を為したことは当事者間に争がないから、被告村山文雄と被告村山産業との間にその頃右土地につき売買が為されたものと認めるべきであり、<証拠―省略>によれば、次で被告村山産業は同年十一月十日被告村山鋼材に対し本件土地を賃貸し、被告村山鋼材は昭和三十二年三月十一日同地上に後記建坪僅か一坪五合の原告等主張の建物一棟を建築し、同年四月十三日その所有権保存登記手続を為したことを認めることができ、右認定を動すに足りる証拠はない。

原告等は本件土地について為された被告村山文雄と被告村山産業との間の右売買は被告村山文雄と被告村山産業とが相通して為した虚偽の意思表示によるものであると主張するけれども、原告等の主張する事実関係のみによつては之を認めることはできないし、他には之を認めるに足りる証拠はない。

したがつて、被告村山文雄は前記の通り買戻権の行使により既に原告等の所有に復帰するに至つた本件土地につき、敢えて被告村山産業(当時は羽田産業株式会社)との間に売買契約を締結し、その登記手続をなしたものであり、<証拠―省略>によれば、被告村山産業は昭和二十一年三月三十一日に設立され、当時被告村山文雄はその代表取締役であつたが、昭和二十七年十月二十日被告村山鋼材を設立しその代表取締役となつたこと、その関係上、昭和二十八年四月二十五日被告村山産業の代表取締役の地位を自己の妻の兄訴外大滝久治に譲つたが、同人は新潟に居住し被告村山産業に出勤することは少なく、被告村山文雄は被告村山産業の大株主たる取締役として依然その実権を掌握していたものであることを認めることができ、右認定を動かすに足りる証拠はないから、かような事実関係に本件口頭弁論の全趣旨を綜合して判断すると、他に特別の特別の事情の認められない本件においては、被告村山産業と通謀して、本件土地の横領を企て、更にその結果を補強する為、被告村山鋼材を之に参加せしめ、同被告もまた之に通謀したものというべく、被告村山文雄と被告村山産業との間に締結された右土地の売買契約は社会生活上正当と認められる取式自由(自由競争)の限界を超えたものとして公の秩序善良の風俗に反し無効と解すべきであり、その結果被告村山産業が被告村山鋼材に対し本件土地について為した借地権の設定行為もまた無効というほかはない。仮に、被告村山文雄と被告村山産業との間の右取引が有効と解せられ、かくて被告村山鋼材の借地権の取得もまた有効とされる場合においても、なお被告村山産業および同村山鋼材は不動産登記法第四条および第五条に準ずる背信的悪意者と認めるべきことは明かであるから、民法第百七十七条に規定する第三者に該当しないものと解すべきであり、原告等は本件土地につき所有権移転登記を経由しないでもその所有権取得を以て被告等に対杭できるものというべきである。

そして被告村山鋼材が現に、別紙第一物件目録記載(一)及び(二)の土地上に原告等主張の建物を所有し、且本件土地全部を占拠していることは当事者間に争がない。

以上の事実によれば、被告村山産業は原告会社の為別紙第一物件目録記載の土地につき、原告申学彬の為別紙第二物件目録記載の土地につき各原告主張の所有権移転登記の抹消登記手続を為し、被告村山鋼材は原告会社に対し、別紙第一物件目録記載(一)及び(二)の土地上の原告等主張の建物を収去して同目録記載の土地全部の、原告申学彬に対し別紙第二物件目録記載の土地の明渡を為し、被告村山文雄は原告会社のため別紙第一物件目録記載の土地につき、原告申学彬のため別紙第二物件目録記載の土地につき、夫々昭和二十八年十月二十日買戻権行使による所有権移転登記手続を為す義務のあることは明かであるから、原告等の被告等に対し右義務の履行を求める本訴請求は之を認容すべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条及び第九十三条第一項本文を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項を適用し主文の通り判決する。

(裁判長裁判官松尾厳 裁判官矢部紀子裁判官小山俊彦は転勤したので署名捺印することができない。)

第一第二物件目録<省略>

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